腎不全のペットの食事で気をつけることは?
2018年05月21日
慢性腎不全のペットの食事について
慢性腎不全は、犬や猫の死亡原因の上位を占める疾患です。
高齢になるほど羅患率も上昇する傾向にある疾患です。
慢性腎不全は、進行性で不可逆性の回復不可能な病気です。
しかし、食事管理を治療の一部に組み込むことや、適切な食事管理を行うことで、腎不全の進行の抑制や、生存期間の延長、QOLの改善が可能となります。
このページでは、慢性腎不全の猫や犬の適切な食事管理のポイントをやさしく解説します。
慢性腎不全の食事管理のポイント
慢性腎不全の食事管理の目標は、適切なエネルギー摂取と適切な栄養素の摂取による栄養状態の支持。
水、ビタミン、ミネラル、電解質の過不足による障害の抑制。
臨床症状の緩和、腎不全の進行の抑制です。
☑十分な水分供給
腎臓は体液量の調節を行っている主要な臓器です。
腎疾患では尿を濃縮する機能が障害を受けるため、多量の薄い尿を排泄するようになります。
そのため、脱水や腎血流量の減少が生じ、腎障害を進行させてしまいます。
腎不全の犬や猫には、いつでも自由に新鮮な水が飲めるようにしましょう。
または食事からも十分な水分が摂取できるようにします。
水飲み場を複数箇所設置して、飲水の機会を増やしたり、好みの水や好みの容器を探してあげると良いでしょう。
☑十分なエネルギーの供給
腎機能が低下すると、食欲不振に陥ることが多くなりますが、腎不全の動物のエネルギー消費量は、正常動物と同じと考えられています。
エネルギー不足は栄養不良を生じ、タンパク質の分解から尿毒症を悪化させます。
そのため、食事からの十分な栄養とエネルギーの供給が必要になります。
腎臓病では、炭水化物と脂質が重要なエネルギー源となります。
脂質含有量の多い高カロリー食は少量でも通常の食事よりも必要な栄養素を摂取することができます。
また、少ない摂取量ですむことで、胃への刺激も抑えられ、嘔吐や悪心の発生を低減できる可能性があります。
☑タンパク質の制限
タンパク質の摂取制限は、尿毒症による悪心・嘔吐・下痢などの臨床症状の軽減に役立ちますが、腎不全の進行緩和に役立つ可能性がある研究結果が示されています。
食事中の過剰なタンパク質を避けると尿素などの食事性窒素老廃物の産生が減少し、排泄すべき老廃物が減少するため、ある程度多尿を緩和することができます。
過度の制限でタンパク質不足による貧血、体重の減少などを生じないように、高品質のタンパク質源を使用しましょう。
また、ペットフードのタンパク質供給原材料はリンを豊富に含んでいるため、高タンパク質フードを避けることで、リンの摂取量を制限することもできます。
☑リンの制限
腎臓の機能低下により、リン酸塩の排泄が障害されるため高リン血症を生じ、慢性腎不全では、リンが病気の進行を促進してしまいます。
また、低カルシウム血症の要因にもなります。
食事中のリンの制限は、腎不全進行の抑制や生存期間の延長、生活の質の向上に役立つことがわかっています。
人の食品にはリンを多く含むものが多いため、できるだけ与えないようにします。
食事管理だけでは、高リン血症を管理できない場合には、フード中に含まれるリンと結合する腸内リン結合剤やサプリメントを食事とともに投与します。
☑ナトリウムの調製
尿細管の再吸収障害により、ナトリウムは容易に欠乏しやすくなります。
また、ナトリウムの排泄は水の排泄を伴うため脱水に陥りやすくなります。
また、大量のナトリウムをろ過することができないため、ナトリウムの過剰摂取は細胞外液量を増加させ、高血圧を招くことになります。
ナトリウムは過剰摂取も過度の制限も避けなければなりません。
通常の食事から制限食へ変更は、徐々に行うようにします。
☑酸性物質
腎機能が低下すると、さまざまな代謝過程で生じた酸を排泄できず蓄積されます。
硫酸、塩酸、有機酸などの酸性物質は、腎不全の進行を早めるほか、死因ともなりうるため酸性物質を回避するようにします。
タンパク質の過剰摂取を回避することで、タンパク質由来の酸性物質の産生が減少します。
そして、適切なエネルギー摂取を保つことで、酸性物質産生の減少に役立ちます。
また、ストルバイト尿石症用療法食などの尿の酸性化を図るフードは与えないようにします。
☑抗酸化成分
ビタミンE、βカロテン、ビタミンCなどの抗酸化成分が腎臓細胞の保護に働き、臨床症状を軽減します。
腎不全の犬や猫では、食欲不振による摂取量の低下や嘔吐、下痢、多尿による排泄量の増加によって、特に水溶性のビタミンB群が欠乏しやすくなります。
ビタミンEなどの抗酸化成分は、腎臓における酸化ストレスを軽減し、腎不全の進行緩和に役立ちます。
☑食物繊維
食事への水溶性食物繊維やオリゴ糖の添加は、慢性腎不全の食事管理に役立つと言われています。
ペットの食事に水溶性食物繊維やオリゴ糖を添加すると、これらが腸内細菌の炭水化物供給源となって、腸内細菌の増殖をもたらします。
適度な食物繊維の添加は、胃腸の運動性が低下してきている場合に、消化管の健康のために有益となります。
【まとめ】
慢性腎不全の犬や猫に与えるフードを選択する場合、以下の3つのポイントをおさえて選んでください。
1:生物価が高い(必須アミノ酸が十分に含まれた)良質のタンパク質が含まれているもの
2:過剰のタンパク質を含まず、リン、ナトリウムが制限され、酸負荷の軽減されたもの
3:必要エネルギー量が十分に確保できるもの